2009年5月5日火曜日

鳥取: その2 内田百種園と辨天娘と遊覧船と砂丘


朝、集団旅行に行くと十中八九そうなのですが、部屋で一番最後に目覚めた私。でも、しっかり朝風呂に入って支度してみんなと朝食を食べる時間はちゃんとありました。ダンディ山根社長と蔵人さんが迎えに来てくれて、鳥取東部1日ツアーに出発です。



最初にやってきたのは、内田百種園。4月に植えたばかりの稲の苗を見せてもらいました。研修生の依田さんの向かって右が4月半ばに植えた強力(ごうりき)で、左が4月4日(自分の誕生日だからしっかり覚えました:D)に植えた山田錦です。奥の方に見える青いシートの下にもち米。ハウスっぽく囲われている中に置かれているのがまだ発芽中のコシヒカリ。苗は青々としてきれいです。さわると柔らかくて気持ちいい。やっぱり気持ちいいのか、カエルが2匹もいました。下の写真に写っています。この苗代に使う土には、山の上で熊笹の根元からとってきた土に、焼きすくも(籾殻の燻製)を混ぜて使うそうです。田んぼの方には焼いてないすくもと竹パウダーを入れます。栄養たっぷりの竹パウダーを分解して繁殖した微生物のふんが肥料になるわけです。よその動物のふんを使った一般的「有機農法」より土地柄(ワインで言えばテロワールですね)を生かすことになるのだと説明を受けました。また、竹を使うことで竹林の手入れにもなるとか。なるほど。目の前でものを見ながら話を聞くと、とっても納得できます。


左の写真が焼きすくも。すくもは籾殻の方言だそうです。(ちなみに上の写真でコシヒカリの向こうに見えるスモーカーで燻製にするんだそうです。)右は、竹パウダー作成実演。って、ほんとに生の竹を圧力粉砕器につっこんでるんですね。しかも寿郎さん素手だし。いつもは軍手とか使っているのかしら? この竹パウダー、出てきたばかりはいい香りがして、ほっかほかでふかふかでさわっていると気持ちいいです。殺菌作用もありそうだし、エステに使えそう……。日本酒と竹パウダーのエステとか、どうでしょう?


その後、ちょっと離れた果樹園におじゃましました。ここはまだ上述のバイケミ(バイオケミカル)農法のテスト中だそうですが、それでも10年も農薬・化学肥料フリーだとか。りんご、なし、ぶどうなどが植わっていて気持ちのいい空間。


左が和梨の豊水の実で、右が洋梨のラ・フランスの花と実。たしかに、今から形がちょっと違います。これから実を間引く作業に入るそうです。ひと枝に形のよいものを2個残してあとはとってしまいます。最終的には1個だけ残すそうです。目の前で内田さんが実をつんでいましたが、素人目にはつんだ実と残した実の違いが全然わかりませんでした……
私は千葉県松戸市(実は二十世紀梨の発祥地)で育って、けっこう梨園(なしえん)が身近にあったので和梨は必ず毎年山のようにいただいて飽きるまで食べるものでした(最近は買ってますけどね)が、自家製のラ・フランスなんてうらやましいなあ、と思ってしまいました。


こちらはぶどう。巨峰だそうです。やっぱり種ありで作ってほしいです。なんだか、地面があちこちでこぼこで大きい穴がぼこぼこ開いています。蟻の天国?と思ったら、もぐらなんだそうです。みみずがいっぱいいるので、もぐらもいっぱい集まるとか。うーん、もぐら穴なんて初めて見たかも。


その後、内田さんのお宅におじゃまして、奥様の手作りのぼたもちや漬け物などをいただいて、のんびりしたひとときを過ごしました。ぼたもちがおいしかった! 実は私はもち米料理全般が苦手で、どうもあのにおいをかいだだけで「むり!」となってしまい、餅やぼたもちは1個食べるがせいぜいなのですが、なぜか内田米だと全然普通に食べられるのです。しかも、おいしいのです。うーん、不思議だ。単においしいから、だけではないような気がします……実はなにか成分が違うとか。このぼたもち、あずきあんと白あんが入っていて、この白あんがとっても気に入りました。白いんげん豆で作るそうなので、自分でも作ってみたいと思います。小かぶのぬか漬け(葉のしょっぱさが絶妙)、うど酢味噌(けっこう酢がきいていて、さっぱり。これもまねしてみたい)、ふきの葉味噌づけゆでアスパラなどもいただいて、うーん、これからお昼なのに止まらない。
内田さんのお宅は純和風で、風がとても気持ちのよい空間でした。奥様の着物もちょっとかかっていて、久留米絣がすてきだったので、るみちゃんとしきりに「いいねー、すてきだねー」と言い合っていました。庭には山野草がたくさん。特にえびねがいっぱい(写真)。父が鉢植えにしていたのに比べて地植えだとより雰囲気よく見えました。スズランと、正式名称がわからないのですが、やっぱりツリガネ型の紅色の花がかわいくてすてきでした。もっと時間があればゆっくり見せていただいたんですが……


続いて、辨天娘をつくっている太田酒造場におじゃましました。小さな街に溶け込んだ、雰囲気のある蔵でした。先代夫妻、蔵元夫妻、息子さんと娘さん(陽子さん)と、三代で出迎えてくださって、アットホームな暖かさを感じました。蔵の中は杜氏の中島さんが案内してくれました。蔵に入るところの屋根のかかったスペースは洗米作業に使うそうです。入ったところにある小さな装置はタンクかと思ったら、なんと、(こしき)でした。うわー、こんな小さくてかわいい甑をみたの初めてです。……ほ、ほしいかも……。1階奥には酒母室に使っているというスペースがありました。


こちらは、醪(もろみ)から酒をしぼるふね。鉄のものが以前からあったけれど、容量が足りないので他の蔵から木製のふねをもらったのだそうです。この木製のふね、今では他にはない、珍しいものだそう。うーん、風情があるなあ。


2階は、現在は蒸し米を放冷する場所として使っているそうです。うーむ、なんだか竹鶴酒造で酒母を並べていた2階と作りがそっくり。きっと昔はここに酒母が並んでいたんだろうなあ。蒸し米などを運ぶには、床の穴と滑車を使います。落ちそうでドキドキした中尾酒造の2階の床の穴と違って、こちらは柵がある分ほっとします。2階の奥には造り中の杜氏の寝室(さすがに見学しません)と麹室。麹室では麹箱麹蓋、出麹を広げる台が片付けられていました。(伝統的な)麹箱を使った麹造りって実は見たことがありません。興味しんしんです。どうやら、どんどん麹フリークになっていきそうな予感。うーん、ぜひぜひ造りのときにうかがってみたいです。2階の一角の展示スペースに、昔使われていた麹あんかヒーターが置いてありました。ラジオかと思った。


最後に、なら漬け蔵を見せていただきました。文字通り、蔵の半分にお酒が貯蔵されていて、残りの半分には奈良漬けの樽が並んでいます。すごい。壮観。
こちらで作っているお酒はすべて純米で、米もほとんどは同じ町内でとれるそうです。その米を、生産者ごとに使っているので、それぞれのタンクごとに生産者の名前まで書かれています。小さな造りと手作業がこのきめ細かさを実現させているのだろうなあ、と思うと、なんだか感動します。実はそれがこれからの日本酒の行き方につながっていくような気がします。まあ、そういう話はまた改めて。


見学後、辨天娘のお酒をいただきながら昼食をとりました。まずは、蔵元のあいさつから。お酒は辨天娘の看板娘、陽子さんがつけてくれました。しかし、途中でなぜか瓶燗になって「何か理由があるんですか?」と訊いたら「みなさん人数が多いので」ってお返事が。うーん、好きだわー。なんだか、すごく仲良くなれそうな予感(一方的意見でごめんなさい)。記念に、中島杜氏と陽子さんの写真を。
いろいろお酒をいただいて、すっかりご機嫌だったので細かい記録がまったくないのですが、印象に残っているのはにごりを2種類飲ませていただいたこと。それから、「まきこの酒」を飲ませていただいたこと。七番娘、ですよね? いつも松の屋さんでいただいていて、飲み比べまでしたことがなかったので、いろいろ比べたらちょっと印象が変わったかな。変わったというより、「食中後半用」と思っていたのが、「最初から最後まで幸せ」に広がったというか(笑)


お昼にはお弁当の他に、辨天娘製奈良漬け(とまらない味!)、山菜入り粕汁山菜おこわ、それになぜか(笑)今日も我々を出迎えてくれた鳥取の地酒を愛する方々のおひとりKさん特製の辨天娘の酒粕をつかったクリームチーズ酒粕漬けを出していただきました。どれもおいしかった~。


その品々だけでもお酒がすすむのに、用意されたお弁当は、鳥取の日本酒好きの方々も加わって考案した居酒屋弁当。鳥取のおいしい酒のつまみが並んで、ごはんもいかめしにばってらで、さらに(右の写真の上段右から2番目をご覧ください)いか猪口まで入っている。お猪口として使って、最後はつまみとして食べられるという便利物。駅でこれを買ったら、あとは日置桜か辨天娘のお酒を1本買えばもう完璧というこのセット、もっと近くに住んでいたならこれを食べながら旅をするためだけに旅に出そうです。
いやあ、「そろそろお開きに」という冷静な(素面の)ダンディ山根社長の声がなければ、きっとみんな夕方までそのまま飲んでいたことでしょう。


山の地方から1時間ほど車を飛ばして、海岸にやってきました。ここから遊覧船に乗って、「山陰の松島」と呼ばれる浦富海岸の遊覧航海です。かなり小さな船でしたが、我々の一行14人ともう1家族だけだったので、余裕がありました。40分ほどかけて、見事な海岸線を往復します。昨日からわりとなだらかな山の景色を見つづけていたので、「すごい、鳥取にこんなダイナミックな場所があったんだ!」とびっくり。地層とか隆起とか浸食とかいう言葉が次々に頭に浮かびました。


あ、岩の上に孤高の海鳥が(左の写真)……と思ったら、孤高の釣り人(右の写真)もいました。というか、あちこちの小島に釣り人が。みなさん、こわくないのかなあ?きっと船で送り迎えしてもらうのでしょうが、急に天気が荒れたりしたらどうするんだろう?


洞窟もたくさんあって、すっごく入ってみたくなりましたが、明らかに海側からしか行けそうにない文字通りのプライベートビーチも魅力的でした。ああいうところでバーベキューしてみたいなあ。
そして、もちろんお酒は欠かせません。乗り場の売店でちゃんと日置桜を買って、さっき太田酒造場でもらった携帯お猪口(いかじゃなくてプラスチック)も用意して船に乗り込んだKさんが、お酒を回してくれて、船上で酒盛り。写真はIさんが海に乾杯しているところ。小さな船なのでかなり揺れます。私ではお猪口に入る量より船に飲ませる量の方が多くなりそうなぐらい。ところが、ワカダンナは1滴もこぼさず、しかも一杯のところまでしっかり注いでくれます。すごいなーと感心しつつ、もうひとつマエストロというあだ名を進呈させていただきました。


遊覧船のあともまだ少し時間があったので、鳥取に来たらはずせない鳥取砂丘にやってきました。酔っぱらいでいい加減疲れてるのに馬の背にしっかり登った我々。もう夕方で陽がずいぶん低くなっているのに、大勢人がいてびっくりしました。上まで行ったら、眼下に海岸線が広がってとてもきれい。るみちゃんはみんなが見守る中、一人で海岸まで降りてまた登ってきました。元気だなー。最初の登りも一番傾斜のきついところ登ってたのに。しかも下駄サンダルで。右の写真は、私の傑作「海に向かう女(るみちゃん)」です。


砂丘を最後に鳥取駅に戻り、おみやげを物色した後みんなで服部珈琲工房で休憩。カフェオレを頼んだら、とっても本格的なものが来ました。おいしかった。
そして、私も含む5名は夜行バスで東京に帰るべく、夜行列車組の方々と別れてバスターミナルへと向かったのでした。さすがに疲れ果てていたので厳しい夜行バスでもかなりよく眠れましたよ。

とっても濃厚で楽しい鳥取2日間でした。山根酒造場のみなさま、内田百種園のみなさま、太田酒造場のみなさま、そして特に我々のわがままを何気なく聞き入れて最初から最後まで面倒を見てくださったダンディ山根社長、本当にどうもありがとうございました。
いやあ、何歳になってもちゃんとおバカなことのできる人間でありたいものです。しかし、風邪が治っていくらもたたないうちに夜行バスに乗った罰か、その後また具合がよくなくなって(ほぼ)禁酒するはめになったので、これからは夜行バスだけは止めておこうと思います。少しは年相応に行動しろって神様が言ってるんだよ、きっと……。

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