2009年2月1日日曜日

広島:竹鶴酒造1日目(その2)

竹鶴1日目の話、その2です。

ここで、別のお客様4人が合流しました。そのうち1人が私の大好きなお店の1つ、千駄木今井の今井さんで、びっくりされてしまいました。まさか広島で会うとはねえ(笑)
さて。二番摺で す。先ほどよりはすりやすくなっているから、と我々も櫂をもたせてもらいました。石川杜氏曰く「時間がかかるだけで、もとすりってのは誰にでもできる作業 なんですよ」。……しかし、5分は長かった。確かに、もとは思ったよりずっとゆるくて櫂を押すのは楽なんですが、戻すときに上に載ったもとが重い。なかな かリズミカルに動けないし。余計な力があちこちに入ってしまっているんでしょうね。「誰にでもできる」もとすりにも熟練は必要なようでした。でも、とても 興味深くて思い出に残る時間でした。
2度、計4回すられたもとはけっこういい感じになってきました。


働きつづける蔵人さんたちには申し訳ないけど、今期の造りでできたお酒を試飲させていただきました。もちろんどれも生原酒。半分ぐらいきもとで、宿根雄町や大和雄町などもありました。一通り飲んで思ったのは「いやー、どれもしぶい」。口の中がいがいがになってました。なんだか、しぶければしぶいほど後が楽しみで 期待してしまう自分がおかしかったです。夜の宴会用に2種類ほど選んで終了。たしか生もとのどれかと、八反になった記憶が。選ばれなかったけれど、います ぐ飲むんだったら比較的軽い味の宿根雄町もいいんじゃないかな、と思いました。ちなみに、試飲会場は酒母室側とは反対の蔵の2階。奥に杜氏と蔵人さんたち の寝室がありましたが、のぞきませんでしたよ、もちろんB) 仕切りがあるだけで、上の方には壁がなく蔵とつながっていたので、なんだか寒そうでした。


さあ、出麹です。できあがった麹を麹室から出す作業。麹の造り方にもいろいろあるのですが、竹鶴では大事な麹(酒母用とか吟醸用とか)は床と箱が合体したみたいな(下に写真あり)で作ってから(上 の写真で麹を出している入れ物)に移して育てます。麹は育つときに熱を出すのですが、蓋に少量ずつ入れてそれをコロニーにまとめて布をかけておくと、内側 の箱が外側より熱くなったときに適宜場所を入れ替えて平均的に育成できるのです。3日目になって麹ができあがったら暖かい麹室から外に移して冷まし、生育 を止めます。これが出麹です。写真は出麹の作業中。蓋から麹を出して、もみほぐします。菌糸がふっかふかです。外に出した麹が早く冷めて水分が残らないよ う、広げて溝をつけていました。うーん、熟練の技。酒造りの工程はどれも興味深いですが、麹を作る過程は特に好きです。目に見える変化がわかりやすくてお もしろいし、蔵ごとにけっこうやり方が違うし、麹米かわいいしおいしいし、……それに麹室って暖かいし……(結局それかい)。


三時の休憩をはさんで麹室の作業がつづきます。この休憩では石川杜氏ご推薦の阿波番茶をいただいてほっと一息つけました。こたつが愛しい。
さて、左の写真は先ほど書いた箱です。ふたつきでがっしり。こんなの初めて見ました。さらにあまり気をつかわなくていい麹を自動的に作る装置もあったりして、ハイテクと手作業がうまくミックスされた麹室になっていました。ふたを開けて、4人の蔵人さんたちが総出で切り返し作業。セミヌード大放出! お米が固まっているので、手の平でこすりつけるようにしてほぐしています。これ、けっこう力いるんですよ。我々もやらせていただきました。作業に参加すると、麹が愛しくなります。かわいいかわいい。


この後いったん近くのホテルに行ってチェックインしてから蔵に戻り、今日最後の三番摺を見学/体験させていただきました。もうずいぶんとろりとしています。ところが一口味見させてもらうと、予想と違って、米粒がけっこう残っているんです。とろとろなのにつぶつぶ。 これが埋け飯の効果、石川杜氏が生もと造りで欠かせないと考える工程の意味なのです。埋け飯によって老化した米は固く、つぶれにくくなっています。それに 対して麹は柔らかいので、もとすりの過程では米を粒状に残したまま麹だけがすられてゲル状になります。米は粒のままなので、この後ゆっくり溶けて時間をか けて糖化が進みます。このゆったりとした糖化の進み具合が、硝酸還元菌→乳酸菌→日本酒酵母が順番に出てくる余裕を与えてくれる、というわけです。一気に 液状になって早く糖化してしまうと雑菌が入りやすくなり、早湧き(はやわき)になってしまう危険が高くなります。生もと造りは労力も時間もかかるものです が、それぞれの仕事にも時間にも意味があるのだ、という杜氏の話にはとっても感銘を受けました。
ところで、石川杜氏はもとすりが終わるたびにそれぞれの桶の温度を調べながらまわりについたもとを小さなへらで落としてきれいにしていました。蔵全体でひとつ作業が終わったらきれいに片付けるという段取りがきちんとできていて、落ち着いてきれいに仕事して片付けることの大切さが身に染みました。だいたい、蔵の仕事って作業そのものより準備や後片付けのほうが多いんじゃ?と思うようなことが多いですが、それをきちんとやることで安全においしい酒が造れるんですよね。見習わなければ。


夜は、蔵の近くのお店で宴会を開いていただきました。お店で出されたものもみんなおいしかったのですが、社長のご自宅で作ってお皿に入れて持ってきてくださった蒸しガキがなんとも美味でした。しかも大量。広島いいところじゃのう。先ほど試飲して選んだ新酒以外にも、出し過ぎた紅茶みたいな色の秘蔵の熟成酒などまでいただいて幸せでした。しかもお燗番は石川杜氏。ああ贅沢。社長ご夫妻と石川杜氏に、のんびり(昼頃?)帰ってきたトシオ専務も加わって、いろいろおもしろいお話が聞けました。すてきなご家族。なんとも濃厚な1日でした。

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