2009年2月1日日曜日

広島: 竹鶴酒造1日目(その1)


睡眠時間2時間で広島駅前から高速バスに乗り、やってきました竹鶴酒造。初めまして。
大塚屋の京子さん、作のりえぞさん、松の屋のるみちゃんと一緒です。今回は、生もともとすりを中心に見学させていただきました。すばらしい体験でした。京子さん、ほんとにありがとうございました!

さて、くわしくはよそを見ていただくとして。いろいろ教えてくださった石川杜氏の話のポイントもよそを見ていただくとして。 私は生もと造りについて多少くわしく書いて、あとは特に注目したポイントなどを中心に書いていきたいと思います。

日本酒の作り方をものすごーく簡単に言ってしまえば、米麹と米(蒸したもの)(と水)を混ぜ、そこででんぷんを食べて糖を作る麹菌を育てて糖分たっぷりの培養液を造り、その中で糖を食べてアルコールを出す日本酒酵母を育てるわけです(うわー、こんなこと書いていいのかな。でも間違ってはいないはず)。ただ、麹も酵母は菌ですから、そこら中に存在する雑菌と競合します。途中で他の菌が入ってきて優勢になってしまうとお酒がくさったりして酒造り失敗となるわけです。では、どうすれば日本酒酵母だけにしっかり育ってもらえるのか? その答えは亜硝酸と乳酸の組み合わせです。亜硝酸についてはあとで説明するとして、まずは乳酸の話。日本酒酵母というものは、他の菌に比べて、非常に酸性とアルコールへの耐性が強い菌です。そこで、酒母(しゅぼ: 上記のこゆーい培養液で日本酒酵母を大量に育てる、日本酒の第一段階。見た目がほとんどおかゆ)を乳酸で酸性にしておけば、雑菌の繁殖を防いで日本酒酵母だけを増やせるのです。さて、乳酸はどうやって入れましょう。今一番多くおこなわれている方法は、速醸(そくじょう)と言って、酒母を仕込むときに醸造用乳酸を入れてしまうという安直なもの。これなら失敗のしようがありませんからね。早くできるし。
それに対して、江戸時代から伝統的に行われてきた方法は、酒母の中に自然の乳酸菌を取り込んで育成して、乳酸菌に乳酸を生成させる生もとです。ちなみに、しばらく前にはやっていた山廃というのも自然の乳酸菌を取り込むやりかたなんですが、自分の目で見たことがないので省略。
さて、(硝酸還元菌と)乳酸菌は大気中にたーくさんいます。生もと造りでは、これらの菌をしっかり育てて日本酒酵母につなげるために、まずもとすりという作業を行います。はー、やっともとすりにたどり着いたよ。さて、ではもとすり作業を見ていきましょう。


もとすりとは、蒸し米と麹を半切桶に入れて、櫂を使って「すりつぶす」作業です。蒸し米は前の日に用意して、10時間ほど布に包んで寝かせます。これを埋け飯(いけめし)と言って、石川杜氏いわく、もとすりと切り離せない作業だそうです(よそでは埋め飯しないところもあるとか)。埋け飯することで一旦糊化(α化)したでんぷんが老化(β化)し、つぶれにくくなるのが重要なのです。それから、蒸し米と麹を半切り桶に等分して水を加えます。米が水分を吸収した頃に手もと(かきまぜる)。夜中にそこまで準備を終えて、翌朝やっともとすりができるようになりました。
竹鶴酒造では、もとすりは時間をおいて3回行われます。1回目は朝の9時。4人の蔵人さんたちが2人一組で右左と櫂の位置を入れ替えながら桶の中の混合物を「いち、に」とすります。時計回りに一歩回って、また「いち、に」。これを1桶5分。2組がそれぞれ5つを回るので、1度のもとすりで1つの桶を2回することになります。最初のもとすりはお米も麹も形があるのでけっこう大変だそうです。
午後にまたもとすりをしますが、それまで桶はそのまま置かれていて、杜氏や蔵人さんたちは他のいろんな作業にとりかかります。


もとすりをしているのは蔵の2階。本当に昔からある蔵に新しく木で2階の床を作ったらしく、新しい木の床に壁は漆喰という、風情のある場所です。そして、寒い……。ここは酒母室にもなっていて、いろんな段階の酒母が何タンクも並んでいました。左の写真は、お湯の入った暖気樽(だきだる)を入れて暖めているところ。仕込みが終わった酒母は、最初のうちは低温で置かれています。その間に、まず硝酸還元菌が侵入して亜硝酸を出します。これによって(もし早いうちに入ってきたとしても)日本酒酵母の活動が抑えられ、先に乳酸菌が活動して乳酸を十分に作り出す余裕ができるわけです。乳酸が増えていくと酸に弱い硝酸還元菌は死滅して亜硝酸は作られなくなります。今年の竹鶴では、生もとはすべて蔵付き酵母で作るそうです。この場合、乳酸が十分にできて亜硝酸が消え、酵母が十分増えるのに3週間ほどかかります。この間、温度を上げたり下げたり様々な細かい管理が必要です。
石川杜氏がそれぞれのタンクからのお湯や水の入った樽を抜いたり入れたりするのを見学しました。重い樽を少し上げて中の水をホースで抜いてからえいやと持ち上げ、回りについた酒母を丁寧にぬぐいとって、タンクから出して洗います。入れるときはお湯の入った樽を担ぎ上げて入れます。タンク全体を暖める装置もあるのですが、「暖気樽だからこそいいんだ」と石川杜氏はおっしゃっていました。樽の周辺だけが暖まってそれ以外は冷たいままだからこそ、暖かい部分で菌が活発に働いて、効率よく乳酸や酵母が増える、で合ってたかなあ?
昼食前に、酒母タンクの「おかゆ」を味見させてもらいました。仕込んでからの日数に応じて味も変わります。また、生もとの酒母と速醸の酒母でも味が違いました。新しい酒母はやっぱりフレッシュでお米の味もする感じですが、時間が経ったものは、特に生もとだと、すんごく酸っぱくて、甘くなくて、そのまま酒のつまみにゴーという味でした。乳臭さのないヨーグルトって感じ。うーん、今まで持っていた酒母のイメージとずいぶん違います。こ、こんなに酸っぱくてキレた味だったっけ。さすが竹鶴は違います。しっかり準備をしたら、後は発酵をほどほどに抑えるということをせずに菌たちを力一杯働かせ、その結果強い酵母ができて、あの強いお酒が生まれるんですね。その過程がよく見える生もとに石川杜氏が惹かれる理由がちょっとわかるような気がしました。飲む方としてもうれしい話です。
3枚目の写真は酵母の培養液です。酵母を自然発生させない場合は、こうやって酵母を培養して添加します。これは、たしか自家培養の酵母だったはず。けっこうとろーりと粘性の高い液体で、あんまりおいしそうじゃなかった(笑)


お昼は、石川杜氏が近くの蔵を改造したお好み焼き屋さんに連れて行ってくれました。広島風って食べるのはほぼ初めてかも。焼いてくれるんですね。ボリュームたっぷりでしたが、おいしくって私は1枚ぺろり。竹鶴酒造のある地域は、竹原歴史保存地区と言って、江戸時代みたいな古い町屋が立ち並ぶすてきな街です。日曜日だったので観光客も多かったみたい。ゆっくり見物したい気も山々でしたが、やっぱりそれより酒造りですよ。というわけで、蔵に戻ってきました。


蔵に戻ると、蔵人さんがいろいろ案内してくれました。まずは麹室。名前のごとく、蒸し米に麹菌を植え付けて培養させるための部屋です。麹室の話は後でまたしますね。ここで、麹菌を植えたばかりの、まだはぜていない(麹菌が繁殖していない)米と、そろそろできあがった麹米を両方味見させてもらいました。できあがりの麹米は繭玉みたいに菌糸がふわふわについています。そして、かみしめると栗みたいな香ばしくて甘い味がしました。ああ、おいしい!こういう状態は総ハゼといって、しっかりした酒質になると言われています。それにしても、ここまでハゼさせているのは初めて見ました。こういうところも竹鶴らしさを生むんだろうなあ、と感心。
それからタンク室。日本酒の造り方はは三段仕込みと言って、できあがった酒母に3回に分けて麹米と掛け米と水を加えて増やしていきます。その間、えさがどんどん増えるので日本酒酵母もどんどん増えて元気に活動し、ぶくぶくと炭酸ガスを出します。3枚目の写真は思いっきり泡が出ている最盛期のタンクです。中央で泡を切る機械がぐるぐる回っていました。4枚目はそろそろえさの糖もなくなって静かになったタンクです。ここまでしっかり発酵しつくせる強さが、酒母の中で生存競争を繰り広げて勝ち残ってきた生もとの特徴なんですね。
5枚目の写真は、タンクで熟成されていたお酒が、澱引きされて出荷を待っているところです。分量が多いせいもあるけど、まるでお醤油みたいな濃い色で、うれしくなっちゃうようないい香りがしました。がっちりした熟成酒さいこー。

さて、長くなったので、続きは次のエントリで。

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